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総合文化研究所
所長あいさつ


久野量一


 2023年度から所長を務めることになり、なぜ自分がこの研究所の所長になったのかを考えるため、この場を借りて自己紹介をしつつ、それを所長の挨拶としたい。

 私はラテンアメリカ文学を専門としている。ラテンアメリカと言っても広く、守備範囲はスペイン語圏で、主にキューバやコロンビアの文学を読んでいる。日常的にも、(当たり前かもしれないが)ラテンアメリカ文学を読みたいし、読まねばならないと思っていて、手に取る本は、日本語に翻訳されていないものであることの方が多い。

 ラテンアメリカ文学の大きな特徴の一つは、英語やフランス語、ドイツ語で書かれた欧米文学から遅れをとっているところにある。スペイン語に翻訳されるのに時間がかかるから、その影響が表面化するのはどうしても時間的に遅くなる。そして影響を受けて生み出される文化的な作品は、手にとるようにわかりやすく影響がもろに出てしまっているものと、その影響を徹底的に過激に乗り越えようとするものの二つに分かれる傾向にある。

  わかりやすい例で言えば、ガルシア=マルケスの初期の中篇『落葉』と『百年の孤独』である。前者はまるでフォークナーそのものである一方で、後者は欧米中心の文学史を書き換える傑作である。この両者の間に横たわる時間を日本的、アジア的な文脈で測ると、バンドン会議から、おおむね東京オリンピックまでとなる。『百年の孤独』現象は、遅れている第三世界だからこそ可能になった爆発で、周縁地域は欧米からの遅れをむしろアドバンテージとして自分達の強い文化を作り上げているということだ。

 これは20世紀の半ば以降の脱植民地代の文化現象だが、21世紀に入り、状況は錯綜してくる。遅れという現象は場合によっては起きていない。感染症が世界中にあっという間に広がる時代である。いまや文化の担い手たちは日々、ブックフェアや展覧会や映画祭その他で世界を飛び回っている。多言語話者でもあるこうした現代の文化人は、言語を越えて同時代の別地域の文化人と付き合い、相互に影響を与え合っている。昔からのコスモポリタン文化人もいるが、むしろ現在は、交通機関の発達により、高度に洗練されたライフスタイルを享受しながら、彼らの地元、つまりローカルな現場にたやすく戻り、そこでの日常生活にも馴染むことができる。移動距離はますます長くなり、移動時間はますます短くなっている。

 こういう現代世界に起きているさまざまな文化現象は、同時代における国境を越えた影響関係や共犯関係、ある種の普遍化?均質化の流れにありながらも、それぞれの地域の歴史性に根ざした固有性にも極めて敏感であるように見える。例をあげるならば、いまこれを書いている2023年は関東大震災直後に起きた朝鮮人虐殺から100年目である。この虐殺は、加速度的に進む同時代性の中で、今後ますます世界中の虐殺と比較参照されていくだろう。そして私たちは今後何度でもその虐殺の意味を日本を含めた東アジアの歴史性に立ち戻って考えていくだろう。そういう文化の時代に生きているのが私たちである。

 こうしてつらつら書いてきてみると、ラテンアメリカ文学を考えるということは、文化を世界的な規模で考えることだ。こう自分を奮い立たせて、所長としての役割を果たしていきたいと思っている。

 

過去の所長あいさつ

?2016年度(和田忠彦)

?2017/2018年度(山口裕之)

?2019?2022年度(沼野恭子)

 



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